創作交流会・課題詞

「開かずの踏切」
       志田昌教
開かずの踏切が 開いていた
吸い込まれるように 越えて行った
すると遮断機は すぐに降りて
元の世界へと 戻れなくなった
 電車は一台も 通っていないのに
 それでも遮断機は 二度と上がらない
立ち尽くす私の すぐ向こう側に
見慣れた街のひ灯が とも灯っているのに

開かずの踏切を 渡ったのは
まだ少女の頃の 私だった
そして遮断機が 上がらぬまま
いつか大人へと なった私だった
 あれから一日も 忘れていないのに
 どうして誰一人 探しにも来ない


「失っていく今」
       志田昌教
平和とは こんなことでしょうか
何の緊張もない 退屈な日々に
刺激を求めて若者は 暴走を繰り返し
痛みを知る心を 失っていく今

平和とは こんなものでしょうか
飢えも寒さも知らず 生きられたことに
疑問も抱かずに人はみな 当然と思いこみ
感謝することすら できないでいる今

一度壊したら もう二度と元には
戻せないものは いくらでもあるのに

平和とは こんなことでしょうか
みすみす大事なものを 失っていく今


「新世紀戦争」
       志田昌教
この手の中にある 試験管に
未知のウィルスが 詰まっている
さまざまな病原菌の 遺伝子を組み合わせ
密かに創り上げた 最強のウィルス

私にはできる 一人で戦争が
たった一本の この試験管の栓を
一度抜き取れば わずか七日間で
最低三十億の 人が死ぬだろう

もはや国家に 何の意味もない
頭脳だけで個人が 国と戦うときに
軍隊もすでに その意味はない
細菌を仕留める 銃などないのだから
けれど私は その試験管を
迷ったあげく やはり
火の中へ 投げ込んだ


「蝋燭(ろうそく)を 鏡に」
       志田昌教
@ 蝋燭を 鏡に映せば
二倍明るく なるのでしょうか
それとも その光は
幻でしょうか
鏡に映った 私とあなたを
思い出します
けれど二倍 幸せに
なれませんでした

A 満月が 水面(みなも)に映れば
二倍明るく 目に見えます
けれども その光は
気迷(きまよ)いでしょうか
水面に映った 私とあなたを
思い出します
けれどすぐに小波(さざなみ)が
消して行きました


 「借景」
       岩本東洋
弥生になれば 日脚も延びて
生きものたちは 夢を見る
川の向こうに 梅の花
隣の庭には さくらんぼ
杏の花も 白い花です

繰り返す四季 さくら山桜は遠く 
生きてる私も 夢を見る
電話があった あの日から
変わることない 親しさに
咲くのを待ちます 片想いでも

きのう咲きそ初め 今日は二部咲き
生き物さくら山桜が 色添えた
池 埋め立てた 宅地にも
色とりどりの 家ならび
ようやく春の 窓の外です


 叙情詩「二十一世紀」
       岩本東洋
 序曲 前世紀

国と国とが 血を流し
覇権めざして せめぎあい
勝って残った この國が
力と金を 積み上げた

 一楽章 はじまり

四機の飛行機 ハイジャック
神のおしえ啓示を胸にいだいて
幾百年の しゅうだつ怨み
いのち惜しまず とびこんだ

こくぼう省も 狙われて
貿易センター 崩れて落ちた
白亜の館は 目の前見えぬ

 二楽章 おののき

戦争のかたちが 変わってしまえば
目には見えない 姿に脅える
怒り狂った この國は
力まかせに 報復はじめた

イラクに火をふく 聖戦は
世界は見ていた この国と
永くつづいた 五十年

 第三章 ニホン

太平洋の 戦に破れ
砂漠と石油のある國に
云われるままに 兵隊出して
ゆれて動いた 平和な憲法

 終章 祈り

収奪、報復くりかえす
三千年の 憎しみおわり
民族・宗教の 諍いとけて
互恵 共存の 光が見えた


「翼を広げ」
 小野朱美
見えない鳥が今 翼を広げて
僕に微笑みかける 大空の下で
夢は元気かと 愛はあるのか!と
眠りかけた心 呼び起こすように
もう一度この夢に 翼を付けて
飛んでみようか 思い切り
ほら輝きに満ちた世界が よみがえってくるから

満たされぬ夢が今 この胸の中で
燃えて語りかけている これでいいのかと
一度の人生に今この愛に
戸惑うだけの心 駆け出して行く
もう一度この胸に 勇気与えて
羽ばたいてみようか 果てしなく
ほら 新たに広がる明日が 映り見えてくるから


「はしれ! くるまいす」
 小野朱美
はしれ! はしれ! くるまいす
このゆめ のせて どこまでも
はしれ! はしれ! くるまいす
ながき みちのり かぜを きり
ひとり あるきは できないけれど
あなたとなら ふりむくことなく とまることなく
はしって いけるから・・・・・
どうか わたしを つれてって
かがやく みらいへ いま すぐに

はしれ! はしれ! くるまいす
このあい のせて どこまでも
はしれ! はしれ! くるまいす
とおい おもかげ おいかけて
ひとり あるきは できないけれど
あなたとなら ふりむくことなく
まようことなく あるいていけるから
どうぞ わたしを つれてって
かがやく しあわせ さがすために



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